
この囲い罠を発信する猟師は、私だけかもしれない。北九州で挑むイノシシ捕獲の実証

この写真を見て、「山の中に張られている、この大きなネットは何だろう?」と思った方も多いのではないでしょうか。



※イノシシを馴れさせるために3ヶ所開放しています。
山林の木々を利用して設置しているのは、ネットを使った「囲い罠」です。
現在、私たち北九州ジビエは、鳥獣被害対策に関わる関係機関と連携し、新しい素材を使用したネット式囲い罠によるイノシシ捕獲の実証に取り組んでいます。
まだ実証段階であり、連携先や罠の詳しい構造については公開できません。
しかし、今後の鳥獣被害対策につながる可能性を持った取り組みとして、実際の山林で試行錯誤を重ねています。
箱罠とは異なる「囲い罠」
イノシシの捕獲で広く使われているのは、金属製の箱罠やくくり罠です。

一方、囲い罠は、一定の範囲を囲ってイノシシを中へ誘導し、捕獲する仕組みです。
群れで行動するイノシシを複数頭まとめて捕獲できる可能性があり、鳥獣被害を効率的に減らす方法の一つとして期待されてきました。
ネット式の囲い罠には、金属製の囲い罠と比べて資材を運びやすく、山の地形や木の位置に合わせて設置しやすいという利点があります。
しかし、実用化に向けては大きな課題も残されています。
最大の課題はネットの強度と耐久性
ネット式囲い罠は、これまで複数の事業者によって商品化されてきました。
しかし、イノシシは想像以上に力が強く、捕獲後にネットへ突進したり、噛みついたりする可能性があります。
そのため、ネットの破損や脱出を防ぐための強度、山林で長期間使用できる耐久性、破損した場合の補修方法などが課題となってきました。
また、資材価格の高騰などによって販売を終了した製品もあります。
現在も国内で販売されているネット式囲い罠はありますが、一般の猟師や捕獲従事者が気軽に導入できるほど普及しているとはいえません。
そこで今回、従来とは異なる素材を使用し、実際の山林で使える囲い罠になるのかを検証しています。
実際の山林で確認すること
今回の実証で確認するのは、単に「イノシシが罠の中に入るか」ということだけではありません。
- イノシシを罠の中まで警戒させずに誘導できるか
- ネットがイノシシの突進や噛みつきに耐えられるか
- 山林の地形に合わせて設置できるか
- 長期間の屋外使用に耐えられるか
- 破損した場合に現場で補修できるか
- 複数頭を安全に捕獲できるか
- 捕獲後の対応や搬出を安全に行えるか
こうした一つひとつの課題を、実際の捕獲現場で確認していきます。
机上の計算だけでは分からないことが、山の現場には数多くあります。
イノシシがネットを見てどのような反応をするのか、どの位置から罠へ入るのか、餌の置き方によって行動が変わるのか。
実際に設置し、観察を続けなければ分からないことばかりです。
囲い罠の「現場の情報」がほとんどない
ネット式囲い罠について調べると、行政や研究機関による実証報告、メーカーによる製品紹介などは確認できます。
しかし、個人の猟師や捕獲事業者が実際の山に設置し、餌付け、誘引、イノシシの反応、改良点、捕獲結果まで継続的に発信している例は、ほとんど見当たりません。
もちろん、「全国で発信しているのは私だけ」と断定することはできません。
それでも、ネット式囲い罠の実証過程を現場から継続的に伝える猟師としては、国内でも数少ない存在ではないかと思います。
成功した結果だけを紹介するのではなく、
「イノシシが警戒して入らなかった」
「設置方法に改善が必要だった」
「ネットに想定外の負荷がかかった」
そのような失敗や課題も含めて発信していくことに、大きな意味があると考えています。
罠の設置から販売まで一貫して行う北九州ジビエ
私たち北九州ジビエは、完成した罠を設置するだけの事業者ではありません。
箱罠やくくり罠などの設置・管理をはじめ、猟銃を使用した捕獲にも取り組んでいます。

さらに、山でのイノシシ猟に欠かせない猟犬を自ら育成し、猟犬とともに山へ入り、イノシシを追跡・捕獲する活動も行っています。
そして、捕獲したイノシシをそのまま廃棄して終わらせるのではなく、自ら解体し、食肉として処理・加工し、商品として販売するところまで一貫して行っています。
つまり私たちは、
「罠を設置する側」
「イノシシを捕獲する側」
「捕獲した個体を解体・加工する側」
「ジビエとして販売する側」
これらすべての立場から、鳥獣被害対策に関わっています。
捕獲者、加工者、販売者がそれぞれ別であれば見えにくい課題も、すべての工程に関わっているからこそ見えてきます。
捕獲しやすいだけでなく、現場で安全に運用できるのか。
捕獲後の処理や搬出まで無理なく行えるのか。
そして、捕獲した命を地域資源として生かすところまでつなげられるのか。
今回の囲い罠についても、単に「イノシシが捕れる罠か」という視点だけではなく、捕獲後まで見据えた実用性を検証していきます。
関係機関と連携した現場での実証
今回の取り組みは、私たちだけで独自に進めているものではありません。
鳥獣被害対策に関わる関係機関と連携し、それぞれの知識や経験を持ち寄りながら、現場での実証を進めています。
鳥獣被害という地域課題は、一人の猟師や一つの事業者だけで解決できるものではありません。
行政や関係機関、地域住民、捕獲従事者、食肉処理施設、飲食店などが連携し、捕獲から利活用までの仕組みをつくる必要があります。
今回の囲い罠による実証も、将来の鳥獣被害対策につながる選択肢の一つとして、関係者と協力しながら進めている取り組みです。
捕獲するだけで終わらせない
私たち北九州ジビエが目指しているのは、単にイノシシの捕獲頭数を増やすことではありません。
鳥獣被害を防ぐために捕獲した命を適切に処理し、おいしいジビエとして地域の中で活用すること。
そして、鳥獣被害という地域課題を、食・教育・観光につながる地域資源へ変えていくことです。
罠の設置、猟銃や猟犬による捕獲、解体、食肉加工、商品化、販売まで一貫して行っているからこそ、私たちにできる実証と発信があります。
狩猟者の高齢化が進む中、今後は鳥獣の捕獲を担う人材の確保が、さらに難しくなると予想されます。
だからこそ、これまでの方法だけに頼るのではなく、より安全で効率的な捕獲方法を、現場で検証していかなければなりません。
このネット式囲い罠が、本当に実用的な捕獲方法になるのか。
まだ答えは出ていません。
だからこそ、試す価値があります。
今後もイノシシの反応や罠の状態を確認しながら、実証の経過を発信していきます。
成功したことだけでなく、失敗や改善点も含めて現場で得られた情報を共有し、次の鳥獣被害対策へつなげていきたいと思います。
※この実証は、関係法令と安全管理に基づき、鳥獣被害対策に関わる関係機関と連携して実施しています。
